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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)944号 判決

控訴人 野原弘一

右訴訟代理人弁護士 前堀政幸

同 香山仙太郎

被控訴人 宮川美智

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一、被控訴人が控訴人に対し昭和三五年六月ごろから昭和三六年四月ごろまでの間に金七四三、一三九円を貸付けたことを請求原因とする主たる請求、および被控訴人が訴外宮川庄吉に対し有する寄託金返還請求権に基く債権者代位の行使として、控訴人に対し、同訴外人が前記期間内に控訴人のため訴外大津信用金庫等に立替弁済した金七四三、一三九円の残額五一三、一三九円の支払を求める予備的請求については、これを理由なしとして棄却した原判決に対し被控訴人から不服の申立(附帯控訴)がないから当裁判所において判断の必要がない(民事訴訟法第三八五条)。

二、次に準消費貸借を請求原因とする予備的請求について考えるに、被控訴人の主張によれば、被控訴人は昭和三五年六月ごろ訴外宮川庄吉に金七四三、一三九円を寄託しておいたところ、同訴外人がそのころから昭和三六年四月ごろまでの間に控訴人が当時訴外大津信用金庫等に負担していた債務金七四三、一三九円を控訴人のため立替弁済した。よって被控訴人は訴外宮川に対し右寄託金返還請求権を有し、訴外宮川は控訴人に対し右立替金返還請求権を有するところ、被控訴人において訴外宮川に代位し控訴人に対し右立替金返還請求権を行使したことに基き、控訴人はその弁済を目的として昭和三六年一二月被控訴人との間に準消費貸借契約をしてそのころ内金二〇万円を弁済し残金五四三、一三九円につき分割弁済を約し、昭和三七年五月七日金三万円を支払ったが残金五一三、一三九円の支払をしないので右準消費貸借契約に基きその支払を求めるというのであるが、債権者は代位権の行使として債務者に代り第三債務者より弁済を受領することはできるが債務者の権利を目的とし、債権者を貸主として第三債務者との間に直接準消費貸借契約を締結するが如き行為をなすことは債権保全の目的を超え債務者の権利を処分するに等しいから、単なる代位権の行使としては許されないものと解すべきのみならず、準消費貸借は同一当事者間に金銭その他の物を給付すべき債務が存在する場合に、その物をもって消費貸借の目的となすことを約するによって成立するものであるから契約当事者間に既存債務が存在せずただ当事者の一方が第三者に対し金銭その他の物の給付義務を負担するにすぎないような場合には、他の当事者において第三者より債権譲渡等の方法により右給付請求権を取得した上でなければ、これを目的として有効に準消費貸借契約を成立させることはできないものと解するを相当とする。そうすると単に訴外宮川に対する代位権の行使として、同人が控訴人に対し有する債権の目的物につき、被控訴人を貸主、控訴人を借主とする準消費貸借契約を締結しても当然無効であるといわなければならないから、右契約の締結につき控訴人主張のような錯誤があったかどうかについて審究するまでもなく被控訴人主張の準消費貸借契約を原因とする請求は主張自体理由がない。

三、次に被控訴人が控訴人に対して直接不当利得返還請求権を有することを請求原因とする予備的請求は、その主張自体により不当利得返還請求権の成立要件を具備していないことが明らかであるから、右請求は失当である。

また訴外宮川が控訴人に対して有する不当利得返還請求権の代位行使を請求原因とする予備的請求は、訴外宮川が控訴人に対し不当利得返還請求をなし得ないこと原判決理由第二項説示のとおりであるから、右請求もまた失当である。

四、よって被控訴人の本訴請求は棄却を免れないから、これと異る原判決を取消し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡垣久晃 裁判官 奥村正策 畑郁夫)

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